「百読百鑑」レビュー 『たけくらべ』 by ぴよこまめ

「たけくらべ」とは、背丈や思いの丈を競うという意味で、題名の通り十代の少年少女の成長が、吉原遊郭周辺に住むのちに遊女となる大黒屋の美少女・美登利と僧侶の息子・信如の恋愛を軸に描かれている。話は八月の夏祭りから始まり十一月の酉の市でクライマックスを迎えるが、最後には彼らが夏祭りで見せていた子どもらしさは消え、大人へと成長している。この地域の子どもたちは親と同じ職につくという決められた将来に少しも疑問を抱いていない。しかし、美登利と信如だけは親の後を継ぐことに疑問を持っている。二人は同じ学校に通っており、意識し合う仲であったが、そのことを友達にからかわれた信如は美登利を避けるようになり、それを知らない彼女は信如が自分に意地悪になったと思い込んでしまう。子どもたちは表町組と横町組に別れて対立しており、美登利と信如は別々の組にいて、二つの組の喧嘩によってさらに二人の仲は疎遠となってしまう。

中でも印象深いのは、雨風が強い日に、信如の下駄の鼻緒がたまたま美登利の家の前で切れてしまい四苦八苦している中、美登利が端切れを渡す場面である。信如に気付き顔を赤らめ端切れを彼の元へ投げる美登利と、それを「ゆかしい」と感じながらも受け取ることができず立ち去る信如とのせつなく不器用な恋は思わず「じれったい!」と言ってしまうほどで、雨の中に残された端切れに哀愁を感じる。

造花の水仙が美登利の家に差してあり彼女がそれを手にとりいつくしむ姿で物語は終わるが、その花には信如との思い出が詰まっている。後からわかることだが、その日はまだ先と言われていた信如が僧になるための学校に入る前日のことである。まさに二人が不器用ながらにも想い合う姿こそが「たけくらべ」なのであろう。

まずは現代語訳で読むのもいいが、この作品の持ち味や独特の雰囲気を感じるためには、ぜひ原文で読んでみるべきであろう。

百読百鑑レビュー これは2013年度入学の言語芸術学科の学生さんが、「百読百鑑」リストから作品を選び、その選んだ作品について書いたレビューです。

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