「百読百鑑」レビュー 『それから』夏目漱石 by メロンパン

 

 いつの時代でも、どんな時でも、人は変化していく。それがいい事なのか、悪い事なのかはさておき、人は絶えず変化する。そんな人の心の変化を、明治40年代の日本を舞台に描いた小説がある。夏目漱石の「それから」だ。

  主人公の代助という独身の青年が、ある時、自分は三千代という女性を愛しているということに気付く。三千代は、代助の学生時代からの友人である平岡という男の、妻だった。そして3年前、平岡に頼まれ、平岡と三千代の結婚の仲立ちをしたのは、代助だった。

  社会的に許されない、しかし諦められない愛を自分の中に見出してしまった代助は、どうするべきかと悩む。そして、自分はその二人の仲を取り持つ前から、三千代を愛していたということに気付く。

  3年前、代助は自分の想いを犠牲にして、平岡の望みを叶えた。しかし、年月を経て、道徳の退廃していく社会とともに、同様に変わってしまった彼が、平岡に体して本当にすまないと思うのは、平岡の妻を愛してしまったことより、その3年前の、自分が平岡に対して「義侠心」を抱いたことなのだった。

  私は、歳月や時代とともに変化する登場人物や、その変化によって起こる様々な事象を「悲しい」と思った。どうにかして、その事象を避けられなかったのか、と。しかし、もし自分がその立場に立てば、やはり、それらのことをどうにもできないかもしれない。

  この作品は、明治という激動の時代を背景に、そのような真情の変化を、美化せず、むしろ社会的・道義的に「悪」とされる感情でさえも、リアルに描く。そのため、読者の方も、共感や驚き、憤りなど、様々な感情を抱いて読むことができる。また、この小説の背景にある、その頃の日本の社会についても考えることができる。

  禁断の愛に陥ってしまった代助は「それから」、最終的に、どう変化し、どのような行動に出るのか。ぜひ一度、読んでみてほしい。

百読百鑑レビュー これは2013年度入学の言語芸術学科の学生さんが、「百読百鑑」リストから作品を選び、その選んだ作品について書いたレビューです。

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