「百読百鑑」レビュー 『高瀬舟』森鴎外 by belle

浪漫主義文学の先駆者であり 活発な評論活動で知られる森鴎外が、54歳の時に書いた本作は、『安楽死』と『自足(自分で自分の必要を満たし足ることを知ること)』をテーマにしたものである。

主人公の喜助(きすけ)は、自殺を図り絶命寸前の弟に「自分を殺してほしい」と頼まれる。喜助は、弟の頼みのまま殺してしまい『弟殺し』の罪で遠島の刑を申し渡される。彼は、護送舟「高瀬舟」の上で、同心庄兵衛に自分の心境を聞かれ語る。庄兵衛は、喜助の告白を聞くことによって、喜助の自足の境地を知り感嘆すると同時に、彼の「殺し」が罪なのかどうかという疑問を抱く。

現代の観点から見れば、喜助の行為は、自殺幇助という列記とした犯罪であろう。しかし、鴎外の時代には自殺幇助という概念は存在せず、喜助は弟を殺した『人殺し』として裁かれる。喜助のとった行動は果たして正当だと言えるのだろうか。

私は喜助の行動は正当なものではないと考える。喜助のように、私にも弟がいるが、その弟が自殺を図り苦しんでいる姿を目の当たりにしたら、まず、弟を助ける。日頃顔を合わせれば喧嘩ばかりするような弟ではあるが、自分の弟に代わる人はいないので、何も考えず本能のままに弟を助けるだろう。喜助と喜助の弟、2人のおかれた境遇が決して良いものとは言えないけれど、私が喜助であったならば、弟に「自分を殺してくれ」とどんなに頼まれたとしても絶対に殺さない。とは言え一方では、喜助の行動は正当なのではないか、という考えもある。同心の庄兵衛は喜助の行動を、弟をこの世の苦しみから救うためにと、弟当人の最後の望みに力添えしただけなので、罪には問われないのではないかと考えている。

喜助も喜助なりに考えてとった行動だった、と言ってしまえばそこまでだが、実際にこの物語を読んでみて、友人との高瀬舟話に花を咲かせてみるのはいかがだろうか。

百読百鑑レビュー これは2013年度入学の言語芸術学科の学生さんが、「百読百鑑」リストから作品を選び、その選んだ作品について書いたレビューです。

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