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人文学部 言語芸術学科 言語芸術学科 Today

2013年02月07日

「百読百鑑」レビュー 『千と千尋の神隠し』 宮崎駿 by 桃華

 

家庭の都合で転校しなければならない千尋とその両親は、移動途中に不思議なトンネルを見つける。そのトンネルの向こうには見たことのないような大きな城や、その下に街がある世界があった。そこで豚になってしまった両親を助けるため、湯婆婆のもと、油屋で働く千尋と、彼女の手伝いをするハクの物語である。

ハクは千尋に「自分の本当の名前を教えてはいけない」と忠告し、湯婆婆のもとへ送り届ける。千尋は湯婆婆に渡された紙に名前を書くとき、荻野の「荻」という字をわざと間違えて書いて渡す。そのシーンが印象的である。私はこの作品を小学生のころに何度も見た。わざと間違えるというこの行動があるからこそ、千尋は最後まで元の名前を忘れなかったのだ。作りこみの深さに感動する。

最初からトンネルの向こうの世界に住んでいたハクは、本当の名前を忘れ、その世界から抜け出せない。それにもかかわらず、迷った千尋を助ける。彼女が困った時に励ます優しさは、知らない世界やシステムで不安になる視聴者を唯一安心させる要素であるように思われる。

結局、千尋はトンネルを抜けたときに向こうの世界で過ごしたことやハクとの思い出、そしてハクの存在すら忘れてしまう。小学生のころに鑑賞したときは、千尋が両親を助け、元の世界に戻ってよかった、つまりハッピーエンドで終わったのだと思った。しかし、今になって思えば、確かに元の世界に両親と戻ることが出来たが、ハクとは永遠に別れなければならなかった。別れた直後のハクのことを考えると、胸が痛む。この作品は一見ハッピーエンドに見えるが、実は見方を変えれば、どうしようも無いほど悲しいバッドエンドだったのではないかと思う。ハクは終始千尋のことを励ましたが、最後には全てなくなってしまう。あえてそのような終わり方にした宮崎駿は、最高の映画監督である。

投稿時間:2013年2月 7日 19:07 | 固定リンク

2013年02月07日

「百読百鑑」レビュー 『宝島』スティーヴンソン by ルナ

 

ビリー・ボーンズという男が、宿屋の息子であり主人公であるジム・ホーキンズの宿屋に現れるところから物語は始まる。物語が進むと、ビリー・ボーンズは死ぬが、ジム、地主のトロリーニ、医者兼検事のリヴジー、一本足の元海賊シルヴァー、その他大勢の船員を連れて宝島に宝探しに行く。彼らは無事に宝島に辿りつく。シルヴァーと彼が連れてきた他の船員は、宝を一人占めするために反乱を起こす。幸運にもジムはその話を宝島に着く前に船の中で盗み聞きしていたので、ジム、リヴジー、トロリーニ、船長は宝島に着いたとき、難を逃れることができた。しかしそれから先もずっとジム側とシルヴァー側の戦いは続く。ジムはシルヴァーの人質にされる。彼らは船を取り合う。また、昔、ある海賊に宝島に置き去りにされた男ペン・ガンと出会う。様々な出来事があり、最後はどちら側が宝を得ることができるのか、そして無事に国へ帰れるのか、終始ハラハラドキドキさせられる。


 私がこの物語の中で最も印象的だったのは、ジムがシルヴァーに人質にされている時のシーンだ。ジムが人質にされていると知って助けに来たリヴジーは、ジムに柵を飛び越えて脱出するように命じる。ジムはシルヴァーがどんなことがあっても自分との約束を破らなかったので、脱出を拒否した。私はこの勇気が凄いと思う。いくらシルヴァーが約束を守る男だからといって、ジムの命の保障はないわけで、そのまま残っていたら、殺される可能性は大いにある。それなのに脱出=シルヴァーを裏切る、と考えて人質のままでいることを決断した。私ならば、自分の仲間が助けに来てくれたら、間違いなく脱出するだろうし、他の人も大半はそうするだろう。彼ほど義理堅く勇気のある人間はそうそういない。


 この物語では、ジムの知性、溢れんばかりの勇気、そして仲間を思い協力すること、時にハメを外すことの大切さを学べる。私生活に退屈・マンネリしている人は是非読んでほしい。一緒にジム達とスリル満点の大冒険へ出掛けよう!

投稿時間:2013年2月 7日 19:05 | 固定リンク

2013年02月05日

「百読百鑑」レビュー 『ノルウェーの森』村上春樹 by 桃華

 

 この作品は、主人公であるワタナベとその周りを取り巻く人々が、昭和の良い意味での古臭さがある世間を生きる様子が描かれている物語である。
  
 親友のキズキが突然自殺をし、キズキの幼馴染である直子とワタナベが次第に打ち解けていくことから物語が始まっていく。読み進めていくうちに直子の、キズキの死に対する思いや彼の死後に急接近していくワタナベへの気持ちが明らかになっていく。次々に現れる大学の友人などの過去や心情が交錯し、ストーリーは複雑化していく。
 
 私がこの作品の中で最も着目した点は、直子とレイコが住む阿美寮と世間との空気の違いである。ワタナベが初めて阿美寮を訪れた時、寮の人々は皆、昼間は農作業や動物の世話など、自分のペースに合わせたカリキュラムをこなし、夜はレイコのようにギターを弾いたりして、穏やかな時間を過ごしていた。患者であれ、医者やスタッフであれ、困った時はお互いに助け合う。寮全体が一つの協調性と信頼でできた集合体のように思われた。しかし、ワタナベが寮から自宅へ戻り、都会の日常生活を送った時、作品中には直接著されていないが、都会独特の空気を感じた。それは困ったことがあれば助け合う温厚な心を持つ寮の人々とは異なり、同じような日常に飽き、冷え切った人間関係の中で何となく働き、何となく学ぶような環境が生み出す空気である。自分の世界に引きこもり、勘繰りあって生きているような人間が多数を占めているから生み出されるのである。ワタナベもやはりそのうちの一人で、阿美寮から帰って来た時の外界の変化についていけなかった描写が印象的である。
 
 この話の一番最後の「僕はどこでもない場所のまん中から緑を呼び続けていた」という文に、この作品の最も薄気味悪く、少し寒気のするような怖さが詰まっている。読み手を唸らせる。  

投稿時間:2013年2月 5日 22:27 | 固定リンク

2013年02月05日

「百読百鑑」レビュー 『銀の匙』中勘助 by 乙部

 

中氏自身の少年時代を舞台に、自伝風に綴られた作品。夏目漱石も賞賛した中氏の代表作である。

作品は前篇と後篇にわかれ、前篇には幼少期が、後篇には中学進学後の話が綴られている。身の回りの世話をしながらたくさんの愛情を注いでくれた伯母、同年代の異性達とのたわいもないやりとりなど、病弱で引っ込み思案だった少年「私」が様々な体験・経験を通して成長していく様子が描かれている。

 

文章の中にしばしば子どもらしい素直な表現がある。子どもの視点ならではの純粋な心情描写や写実的な擬音語などにも注目して読むとおもしろい。また、情景描写の表現が繊細で、美しい。秀逸な文章表現に想像力を掻き立てられる。中氏が綴る文章を読みながら、不思議と自分の子供時代に戻ってきたかのような懐かしさに浸ることができる。この作品を読み終えたあとには、言葉では言い表し難い静かで柔らかな感動を覚えた。

 

しかしこの作品は、決して「大人から見た子供の世界を描いた作品」というようには表せない。それは大人が子供の視点で書いた作品と呼ぶにはあまりにもリアルで、まるで子どもが体験したことをそのまま文章化したかのような中氏の巧みな文章表現が、読者を惹きつけるからである。漱石は、この作品で中氏を「子どもの体験を子どもの体験としてこれほど如実に描きうる人は、実際ほかに見たことがない」と絶賛した。

 

そんな中氏が描く「子どもから見た子どもの世界観」をじっくり堪能したあとは、朗読などの表現活動に活用することも是非お勧めしたい。私自身もこの作品を読み終えたあと朗読に取り組み、作品に対する関心・理解を深めた。主人公「私」の心情の読み取り、情景描写の想像、主人公を取り巻く登場人物の性格分析や台詞の真意など、朗読をするにあたって改めて様々な角度から作品を見つめ直す。そうすると、最初に読んだ時とは異なる「銀の匙」の新たな一面が見えてくる。

 

この作品を通して日本語の美しさ、秀逸な文章表現から生み出される世界観・無限の可能性を体感していただきたい。この作品を読むと、日本語、日本文学を更に好きになれる。

投稿時間:2013年2月 5日 22:26 | 固定リンク

2013年02月05日

「百読百鑑」レビュー 『ガリヴァー旅行記』  スウィフト作 平井正穂訳 by パルカ

 ガリヴァー旅行記は、第一篇~第四篇からなるレミュエル・ガリヴァーの旅行記だ。
 旅行記では、ガリヴァーは航海術やいろんな数学の分野、医学を勉強し、多くの航海で船医として船に乗っていた。
 ガリヴァーが訪れた国は、リリパットという小人国、ブロブディンナグという大人国、ラピュータという空飛ぶ島、日本など。どの国もそれぞれ違いかわった国ばかりだ。だが、すべてに共通するところがある。それは、ガリヴァーが国や島に上陸するまでに、暴風雨に遭い、船が押し流されたり、船が真っ二つに壊れてしまったり、浸水したりと事故が起こるところだ。第三篇には、海賊に見つかってしまう。その海賊船の中には、日本人の船長も出てくる。
 よく知られているのは第一篇の小人国のリリパット国の話だと思う。その話には、スウィストの思いが込められていると思う。話の中で、リリパット国とプレフスキュ国は、些細なことで戦争をして対立していた。そのことから、些細な出来事が大きな闘争になるということを、伝えたいのだと思う。  
 また、第四篇では、ガリヴァーの祖国のイギリスことが多く語られている。
 このように、第一篇から第四篇ひとつひとつ著者のスウィストの思いが、物語として国々で起きている。 
ガリヴァー旅行記は、各篇話の内容が全く違うので、楽しめると思う。
 いろんな形で、映画化もされていて、子どもから大人でも面白くなれ、ガリヴァー旅行記の世界観を想像できると思う。そして、日本のことも書かれていて、自分が住んでいる国のことがかかれていて、とても親近感がわいた。

投稿時間:2013年2月 5日 18:40 | 固定リンク

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