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人文学部 言語芸術学科 言語芸術学科 Today

2013年02月09日

「百読百鑑」レビュー 『オペラ座の怪人』 by ぴーちこ

 

『オペラ座の怪人』監督:ジョエル・シューマカー。キャスト:ジェラルド・バトラー、エミー・ロッサムジェラルド

オペラ座の地下に隠れ住んでいる男が、美しい心と声を持つクリスティーヌに出会い恋に落ちる話。

オペラ座の怪人ことファントムは、生まれつき顔に痣があり、それが原因で親に捨てられ見世物小屋で育った。その見世物小屋で日々ひどい扱いをうけていたファントムは、ついに自分を見世物にして荒稼ぎしているその男を殺してしまう。その一連を偶然見ていた、当時オペラ座の寄宿生であったマダム・ジリーはファントムを連れ出しオペラ座の地下で匿(かくま)った。そして時は経ち、ファントムはオペラ座の地下での生活を続ける内に建築やデザイナー、オペラの脚本などをこなす天才へと成長していった。

しかし、そのことを知っているのは当人達だけであった。オペラ座の地上で暮らしている寄宿生や支配人達は、姿は見せないものの脚本などをこなしオペラ座を牛耳るファントムに怯えていた。その上、莫大な給料を要求したり、気に食わないことがあると嫌がらせをするファントムはみんなの疎まれ者だった。そんなファントムであったが、ある日寄宿生としてやって来た美しい声を持つクリスティーヌに心惹かれ、溺愛し幼いうちから歌を教えた。クリスティーヌは、姿は見えないものの優しく歌を教えてくれるファントムのことを天使と呼び、その心安らぐファントムの声に亡き父の姿を重ねながら師として慕った。

ある日、オペラ座に、スポンサーとして幼い頃クリスティーヌと恋人同士であったラウルが訪ねてくる。若くて美しいラウルとクリスティーヌは忽ち恋に落ちていく。その様子を見ていたファントムは遂にクリスティーヌの前に姿を現してしまう。そして、彼女を自分のものにする為に、誘拐したりラウルと戦ったりを繰り返す。だが、そんなファントムをも彼女は受け入れ愛していた。しかし、ラウルを人質にとり、地下で一緒に生きていくことを強要した事で遂にファントムに愛想を尽かしてしまう。そんな彼女を見たファントムは身を引く決意を固め、ラウルとクリスティーヌをそのまま地上に返し自分はオペラ座から姿を消すのであった。

人間は、自分の殻から出ることを恐れ自分以外の考えや選択を疎むくせに、自分の知らない眩しい世界に憧れを抱き殻から出られない自分をも疎みながら生きている。という事だと思う。ファントムの場合は、普通に生活出来ないほどに醜い顔という自分を縛り付ける絶対的要因があり、私の様な平凡な人間とは比べ物にはならないかもしれない。しかし、誰しもいいと思っているからこそ自分がそう有るわけで、自分にないものに興味を抱くものの、それにチャレンジできない事から憎しみという感情に至るまで変貌を遂げるということは、珍しい事ではないと思う。

投稿時間:2013年2月 9日 11:24 | 固定リンク

2013年02月09日

「百読百鑑」レビュー 『風立ちぬ』堀辰雄 by 17

 

「風立ちぬ」は堀辰雄の代表作で、結核文学の最高峰に位置する小説。作者の堀辰雄は肺結核を患い、軽井沢で療養することも多く、そこを舞台とした作品を多く残した。

 若妻節子が結核を患い、自宅での療養生活から始まる。結核は当時不治の病だったのでサナトリウムという隔離病棟で生活する。院長の診断で療養は1、2年という見通しとなり、節子の病状があまりよくないと院長から告げられる。

八ヶ岳にある高原診療所についた「私」は付添人用の側室に、節子は病室に入院する。院長に病院中でも2番目くらいに重症だと告げられる。9月に、病院中一番重症の17号室の患者が死に、次は節子かと恐怖と不安を感じた。

 1935年の10月ごろからサナトリウムから少し離れたところで物語を考え、夕暮れに病室に戻る生活となり、節子との貴重な日々を日記に綴ってゆく。冬になり、12月5日、節子は、山肌に父親の幻影を見た。私が、「お前、家へ帰りたいのだろう?」と問うと、気弱そうに、「ええ、なんだか帰りたくなっちゃったわ」と、節子は小さなかすれ声で答えた。

 1936年12月1日、3年ぶりに節子と出会ったK村に私は来た。山小屋で去年のことを追想し、私が今このように生きていられるのも、節子の無償の愛に支えられているのだと気づき、ベランダに出て風の音に耳を傾け立ち続けた。

 全編にわたって、ほとんどが心理描写と情景描写、という感じで、あまり動きはないように感じた。やわらかな文章なので優しくも物悲しいような印象を受け、妻節子の容態が悪化し発作が起こる描写が少なく、亡くなるシーンは一切描写されていないことには驚いた。これは、作者自身、そしてその妻が結核を患っていたので書けなかったのではないか、と考えている。一般的には「死のかげの谷」が素晴らしいと言われているが、私は冬の最後の場面が好きだ。いつ死んでしまうのかわからない焦燥感に駆られ、胸が苦しくなったが、感情移入がしやすく感動した。

投稿時間:2013年2月 9日 11:04 | 固定リンク

2013年02月09日

「百読百鑑」レビュー 『スティング』 by belle

 

1936年、シカゴ近郊のダウンタウン。若いイカサマ師ジョニー・フッカーは、ある日、誤って、大物のギャングロネガンの手下から金を騙し取ってしまう。この事件がきっかけになり、ジョニーの友人ルーサーが殺されてしまう。ジョニーは、復讐は詐欺でやると心に決め、ヘンリー・ゴンドーフの力を借りながら、ロネガンをひっかけることにする。ギャング、詐欺師、警察、FBI、謎の女。絶妙な脚本で話が進んで行く。この映画に関してはネタばれできないので、これ以上の内容は書けない。

『どうせやるなら、大きく騙せ!愛すべきイカサマコンビ、一世一代の大賭博!』というキャッチフレーズに惹かれて、手に取った。実際に観てみると、キャッチフレーズ通りでドキドキハラハラがとまらない。誰もが聞いたことがあるだろう60年代の音楽やノスタルジックな雰囲気が、緊張感溢れるスリル満点なシーンに絶妙にマッチしている。寒さの残るこの季節、家族みんなでこたつに入り、詐欺師のスリルを味わってみてはいかがたろうか。

投稿時間:2013年2月 9日 10:42 | 固定リンク

2013年02月07日

「百読百鑑」レビュー 『それから』夏目漱石 by メロンパン

 

 いつの時代でも、どんな時でも、人は変化していく。それがいい事なのか、悪い事なのかはさておき、人は絶えず変化する。そんな人の心の変化を、明治40年代の日本を舞台に描いた小説がある。夏目漱石の「それから」だ。

  主人公の代助という独身の青年が、ある時、自分は三千代という女性を愛しているということに気付く。三千代は、代助の学生時代からの友人である平岡という男の、妻だった。そして3年前、平岡に頼まれ、平岡と三千代の結婚の仲立ちをしたのは、代助だった。

  社会的に許されない、しかし諦められない愛を自分の中に見出してしまった代助は、どうするべきかと悩む。そして、自分はその二人の仲を取り持つ前から、三千代を愛していたということに気付く。

  3年前、代助は自分の想いを犠牲にして、平岡の望みを叶えた。しかし、年月を経て、道徳の退廃していく社会とともに、同様に変わってしまった彼が、平岡に体して本当にすまないと思うのは、平岡の妻を愛してしまったことより、その3年前の、自分が平岡に対して「義侠心」を抱いたことなのだった。

  私は、歳月や時代とともに変化する登場人物や、その変化によって起こる様々な事象を「悲しい」と思った。どうにかして、その事象を避けられなかったのか、と。しかし、もし自分がその立場に立てば、やはり、それらのことをどうにもできないかもしれない。

  この作品は、明治という激動の時代を背景に、そのような真情の変化を、美化せず、むしろ社会的・道義的に「悪」とされる感情でさえも、リアルに描く。そのため、読者の方も、共感や驚き、憤りなど、様々な感情を抱いて読むことができる。また、この小説の背景にある、その頃の日本の社会についても考えることができる。

  禁断の愛に陥ってしまった代助は「それから」、最終的に、どう変化し、どのような行動に出るのか。ぜひ一度、読んでみてほしい。

投稿時間:2013年2月 7日 19:09 | 固定リンク

2013年02月07日

「百読百鑑」レビュー 『千と千尋の神隠し』宮崎駿 by 乙部

 

2001年7月20日に日本で公開された、ジブリ・宮崎駿監督の作品のひとつ。これまでのジブリ作品の中でも、本作品は日本での映画観客動員数が最多。その勢いのまま世界へと飛躍し、世界各国で数々の名誉ある賞を受賞した。世界的にも有名な作品である。

 

主人公である10歳の平凡な女の子「荻野千尋」は、引っ越しの途中、両親とともに不思議の街へと迷い込んでしまう。そこで千尋は謎の少年「ハク」に導かれ、街の掟を破り豚になってしまった両親を救うべく「湯婆婆」が営む湯屋で働くことになる。躓きながらも働き手として懸命に掃除をする。オクサレ神と化してしまった河の主や拙い意思疎通しかはかることのできない「カオナシ」を救う。周りの人に支えられながら、千尋は自分の力で道を切り開いていく。

 

観客のターゲットは子供たちである。私自身、小学校時代に母に映画館へ連れて行ってもらい、この作品を鑑賞した。幼いながらに作品から何らかの「思い」を感じ取り、感動して涙したことを覚えている。宮崎駿監督は、「ハクが千尋にしたように、あなたに親切にしてくれる人はきっとあなたの周りにいる。子供たちがどのように受け取ってくれるかは分からないが、そういうことを感じてくれたら嬉しいと思いながらこの作品を作った」と話している。

 

何度見ても飽きが来ない独特な雰囲気や細かい設定の中に色々な楽しみ方がある。不思議の街と現世界とを繋ぐトンネルの入口の色の変化、湯婆婆との契約書に千尋が自分の名前を書くシーンの誤字、千尋が湯婆婆の双子の姉である「銭婆」に貰った髪飾りの描写など、登場するキャラクター達の表情・心情を読み取りながら、時間の経過に伴う情景描写の変化に注意して観てみるのも楽しい。また、千尋が現世界へ戻る時のハクの動きなど、行動から読み取れるキャラクター達の心情の変化にも注目したい。この作品を観たことのある人も、観なおしてみると、新たな発見や感動があるだろう。

 

周りの人々や環境に支えられ、自分が今ここに在ることに感謝したい。人との関わりや出会いの大切さを教えてくれる作品である。

投稿時間:2013年2月 7日 19:08 | 固定リンク

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