2013年1月アーカイブ

Column7 「福岡と関西」連載第3回(最終回)

 

さて、福岡の若年層の関西・関西弁に対す好感度の高さは、福岡の若者が話す言葉にどんな影響を与えているのでしょうか。2009年度から2011年度は「若者の音調の全国的変化」のプロジェクトにかかわりました。全国で若者に共通する音調の変化が起こってきているのではないかという仮説のもと、北海道・東京・福岡・鹿児島で調査を実施しました。僕自身は、若者の発話に一種の省エネ化が起こってきているのではと睨んでいるのですが、それはさておき、次のような場面がありました。

調査では、例えば、福岡の大学生に「広島のお土産をたくさんもらった」という文章を読んでもらい、その音声・音調を分析します。最初は書いてあるそのままで、次に、「くだけた場面を想像して、方言で」とお願いすると、「たくさん」の部分をかなりの大学生が「めっちゃ」に変えるのです。「めっちゃ」を使うのは、もともと関西です。それが若者を中心に全国で広がりつつあるのですが、福岡ではかなり浸透しているのが実感できます。福岡の若者にとっては、「たくさん」や「とても」は「めっちゃ」でいうのが普通の言い方という意識かもしれません。

しかし、地元福岡なら「たくさん」の部分は、「ばり」や「ちかっぱ」(力一杯)などとなるはずのところです。この2つは、程度副詞「とても」に相当する言い方で、福岡を中心とした地域で使用される方言です。しかも福岡の若い人が生み出し、広がったものです(福岡の年輩の方に、該当する言い方を尋ねると「相当」と回答があります)。こうした方言を「新方言」とよびます。このように、方言は、必ずしも年輩の方のものではなく、若い人が作り出す方言もあるのです。

2001年度から2003年度まで談話の文法機能の研究をしました。大学生二人組に1時間ほどおしゃべりしてもらい、ある文法項目を調査する方式です。ある組では、1時間の談話の中に、「とても」に相当する言い方として、「ばり」が5回、「めっちゃ」が2回、「むちゃくちゃ」1回、「えらい」1回、「かなり」1回、「すごい」1回が出てきました。すでに「めっちゃ」が顔をのぞかせてますが、主力は福岡の新方言「ばり」でした。

約7年後の音調の調査は同じ条件ではないので、比較するには注意が必要ですが、調査時に、ほとんどの若者がすぐに「めっちゃ」と口をついて出てくる状態でした。関西・関西方言への好感度の高さがここまでの現象を生んだのだと思われます。

以上、3回にわたって、コミュニケーションの問題を「福岡と関西」というテーマで述べてきました。大学は高校までと違って、「不思議」を追求するところです。その「不思議」は皆さんの身近なところにころがっています。新学科では、様々な分野の教員が、皆さんと「不思議」を見つめ、「不思議」を追求していきたいと待っています。(二階堂整)